新興国ビジネスにつきもののようについてくる「フェアトレード」という言葉。
なんとなく良いもの、ポジティブなものというイメージで、実際に何か思考を巡らす人は少ないのではないだろうか。
フェアトレードとは、直訳すると「公平な貿易」。
フェアトレード・ラベル・ジャパンによると、開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することにより、立場の弱い開発途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指ざす「貿易のしくみ」を いう。
私がこの言葉の意味を考えさせられる場面に直面したのは、2年以上前のこと。ビジネススクール時代に訪問した南アフリカのワイナリーで、ファミリービジネスでワインを生産する経営者が、「フェアトレードワイン」の収益の一部が労働者に還元されたことで、彼のワイナリーで働く労働者の子供の大学進学の学費が捻出されたということを誇らしげに語っていたのを聞いたときだった。
一見、素晴らしい話のようだが、そもそも、「施し」を受けずに、真面目に働き質素な暮らしを営む労働者が、子供の学費を捻出できないというその給与体系に問題があるのではないのか?
と思ってしまったのだ。
15世紀末、大航海時代にポルトガル人が到来し、その後、オランダ人が入植、イギリスに譲渡された南アフリカには(よくあるオランダ→イギリスパターン)、金やダイヤモンドを狙ったオランダ、イギリスからの移民が集まった。現地で話されるアフリカーンス語は、オランダ語によく似ており、おおまかな意思疎通ができるほどだ。
1807年にイギリスがアフリカ人奴隷貿易禁止を打ち出し、1848年にはフランスが、 1863年にはオランダが、米国が、南北戦争の終結に伴い、1865年に奴隷制度を廃止した後も、南アフリカは、人種隔離政策、アパルトヘイト下で、実質的な奴隷制度を1994年まで実施していた。
「南アフリカにはたくさんの民族が住んでいて、それぞれ違う伝統や文化、言語を持っている。それぞれの民族が独自に発展するべきだ。アパルトヘイトは差別ではなく、分離発展である」という多文化主義による合理的な政策と主張し、その建前のもと、様々な立法を行った。
- 1911年「鉱山労働法」人種により職種や賃金を制限し、熟練労働を白人のみに制限した。
- 1913年「原住民土地法」アフリカ人の居留地を定め、居留地外のアフリカ人の土地取得や保有、貸借を禁じた。
- 1926年「産業調整法」労使間の調停機構が設立され労働者の保護立法のさきがけとなるが、アフリカ人労働者は労働者の範囲からはずされた。このため、以後は白人の労働組合のみが労働者を代表することとなった。
- 1927年「背徳法」異人種間の性交渉を禁じた
<参照:レナード・トンプソン 『南アフリカの歴史』 明石書店>
その他にも、白人労働者とそれ以外の労働者の雇用比率を規定し、さらに白人労働者は非熟練労働者でもアフリカ人よりも高給を与えられるようにしたり、1970年には白人の工業労働者は平均して、黒人の6倍、白人鉱業労働者は黒人の21倍の給料を得るようになっていたという。
白人には、教育予算を充てたが、黒人に義務教育はなかった。
差別される側の黒人は約2500万人、インド系住民約90万人の約2600万人対して、白人は20%にも満たない490万人程度である。この頃、支配者層は、各人種統計の人口情報が漏洩しないよう細心の注意を払ったという。
これが、奴隷制度でなくて何と言えよう?
この間に、南アフリカは、不当に安価な労働賃金に頼った産業構造が出来上がってしまったのだ。
このワイン業界もその一つだ。
安い労働コストを武器に、安価なワインで欧州ワインと対抗してきたため、農園で働く労働者の賃金水準が低く一定に設定されてしまった。
他社と価格が大きく乖離しては、競争できないから、賃金を上昇させることはできない。そこで、導入されたのが、フェアトレードというコンセプトだ。
このフェアトレードワインは、他の南アフリカワインよりも高くても、その分が労働者に還元されるということを謳っているので、そのワインが高くても消費者からの理解が得やすいというわけだ。
幾つかの期間がフェアトレード認証を行い、フェアトレード商品としてお墨付きを与えている。
フェアトレード商品を買えば、貧しい人たちの役に立ちますよと。
しかし、最近、一朝一夕に変えられない業界構造に一石を投じるための手段だったフェアトレードが、むしろ、マーケティングのために使われ一人歩きしていることもあり、複雑な気分になる。
認証を受けること自体にコストがかかるし、それを保持するのにもコストがかかるのだ。
そのあたりについては、下記の本がわかりやすく説いている。
ある時、パーティーで出会った日本在住のアフリカビジネスを行っているという白人男性に、ガーナで、ガーナ人ビジネスパートナーと起業して、ファッションオンラインショップを運営しているという話をすると、「それはフェアトレードですか?」と問われ、なんとも言えない違和感を覚えたことを今も鮮明に覚えている。
ガーナのMindNET Technologies Ltd のCEOはガーナ人パートナーだし、従業員も皆、ガーナ人だ。ガーナ人がガーナでガーナ人に対して商売をしているのだ。お互い対等な立場で商売しているのだから、フェアなトレードに決まっているだろう。それとも、お金を出して認証を取らないと、フェアトレードではないと思っているのだろうか?なぜ、そんな無駄なお金をかける必要があるのだろう?
そう言っても、彼は、「フェアトレード認証を取るんですよね?」と罪のない笑顔を見せた。
違う言葉を話すもの同士の会話のようだった。
おそらく彼に言わせれば、JUJUBODYのビジネスは、フェアトレード認証を取得していないので、フェアトレードにならないのだろう。
JUJUBODY は、日本の会社が現地と取引を行っているが、基本的に妥当だと思う値段であれば、私は相手の言い値で取引を行っている。他のサプライヤーから調達すれば、半額以下で買えるものも、それに見合う「質」であれば、提示された値段で購入している。色々試したが、価格だけの違いがあると感じだからだ。現地とのやりとりには、私の持つもう一方の現地法人にも交渉に入ってもらう。
外国企業だからって、現地企業に技術伝授するわけではなく、VIVIA JAPANは、すでに良いものづくりをしているサプライヤーを選択し、原材料、製品をピックアップしていて、日本マーケットに合うようにブランディングし最終プロダクトを届けているのだから、最初から、お互い対等な立場だ。
あえて言わなくても、フェアなトレードに決まっているじゃないか。
現地のサプライヤーが世界で販路を広げるためにフェアトレード認証を取りたいというのならば、その協力は喜んでしたい。でも、日本で販売する際に、マーケティングに役立つからとフェアトレード認証を取得するのであれば、私は、その費用を他のものに費やしたいと思う。